Страница 7, Нильс вправляет мозг Реину, имеет разгвоор с Джао, а после гибнет.
читать дальшеp07 (TOX Fan's Bible 120)
「お前はたくさんの覚悟も望まない責任も負わされて、ほんの小さいうちから大人にならざるを得なかった。その痛みを僕はずっと見てきたつもりだし、それを分かち合いたいと、どんなときだって願っている。でもあの子たちは違う。国とか駆け引きとかそんな難しいことなんて何ひとつ知らない、まだ自分の名前さえ満足に綴れないような、平凡で、かよわい子供だ」
息苦しいくらいに胸に迫る、子供のころの記憶。ふたりして転げ回った、ヒースに埋め尽くされたロンダウの大地。痩せた土地一面に広がる草の海で、小さな紫の花の間に揺れる、リインの澄ました顔。
国が滅びることなんて、悲しみに暮れることなんて、これっぽっちも考えなかった。息が上がるまで遊んで笑って抱き合って、遠い未来までいっしょだという誓いがあれば、それ以上の何ものも必要なかった。
「あの子たちにはもうここしか居場所がないんだ。自力では険しい岩壁の外に出ることもできない、この薄暗い閉じた世界に、すべての人生と幸福を賭けている。実験の結果とか、素養とか、僕たちが目的としていたものに叶わなかったとしても、そんなものとは何の関係もなく」
少女の遠慮がちな笑顔が脳裏をかすめる。
「とうか、幸せを与えさせてくれ」
物心ついたときから自分の命そのものだと、大切にしてきた友が、少しずつ触れられないものになってゆく。リインの心が遠く、だからこそ敵だったはずのジャオが、我が物顔で研究所に出入りしているのが苦々しかった。
彼はここにいる子供のひとりと縁故があるらしく、それゆえに自ら希望して、たびたび訪れる。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの、ガイアス直属の部下だ。研究所になぞ置いておかず、自分の住まいに引き取ってやれば、今よりずっと恵まれた暮らしができようものを。
ジャオの到来が知らされ、ニルスはひとり男の前に立ちはだかった。
「知り合いの子がいるんですってね」
「......ウインガルから聞いたのか?まあ、知っていると言えば、そうだ」
大きななりをしながら、困惑した表情で自分を見下ろしている。リインとの一騎打ちで見せた凶暴さはすっかり影を潜めていたが、あのときのリインの姿を思い出すと、皮肉のひとつでも言わねば気が済まない。
「ア•ジュールのお偉いさんになったんだから、引き取ってあげればいいのに。それともこんな場所で苦労してる子供になんて、関わっていられないですか?」
「そう責めんでくれ。こんな生き方をしているのだ、己が身に何かあって、親しい人間をまた失うような目に遭わせたら、それこそあの子の心を壊してし まう」
「欺瞞ですよね。都合のいい、大人の言い訳だ」違う。これはただの八つ当たりだ。
「第一、もう顔向けはできまい。あの子の不幸を呼び込んだのは、ほかでもない自分なのだから」
ジャオはそれ以上は頑として語らなかった。過去に何か具体的な事件があったのか、それともこの騷乱の十余年そのものを指しているのか。
しかしア•ジュールの混乱の一端は、間違いなくロンダウの一族が招いたものだ。リインの理想に率いられた忠実な兵士たちが、何人もガイアスの兵に斃され、その家族が立ち直れぬ悲しみにうちひしがれ た。ラーシュやヤーンたちは戦のときには決まって、あちこちの村から物資を根こそぎ徴発した。ずっ と昔から、冬を越せずに飢える民が絶えることはなかった。誰が勝利しようと、ひとつの戦いが終わるたびに人々の暮らしは荒れた。リインお抱えの立場にいなければ、自分はそのどちらにいたことか。
ごめん、ジャオさん。どうにもならない感情に押し流されたことを恥じ、ニルスはつぶやく。
首元を飾るキタル独特の毛皮で目元を隠すように、ジャオが深く顔を埋めた。
侵入者を知らせる緊迫した声が響き渡ったのは、水場(ウンディスも盛りに入った、ある月の夜だった。
数はわずかだ。しかし敵は明らかに戦い慣れしている。辺境蛮族のようなゲリラ的な統率と、正規兵顔負けの規律とを備えている。独特の方法論で徹底的に訓練され、警備を易々と突破する手腕は、相手の正体を捉えようもない。
扱う武器はそれにも増して不気味だ。ただの物理的な攻撃ではないはずなのに、マナの揺らぎもなければ、術の詠唱もない。高度な術士はごく短縮化されたファンクション詠唱を使いこなすというが、そうした気配さえ一切感知されなかった。得物は沈黙のうちに火を吹き、一瞬ののちに標的を絶命させる。
侵入者の目的は殺戮ではない。それが証拠に、不幸にも対峙してしまった警備兵を倒したあとは、目をかいくぐって研究所の奥へと進んでいる。増霊極 (ブースターの存在を嗅ぎつけて来たことは間違いない。
ならばまずは子供たちを助け出さなくては。
実験棟にはジャオとともにリインがいる。すなわち敵が目標にたどり着けば、同時にふたりに見つかることになる。袋の鼠とは気の毒なことだが、運が悪かったと諦めてもらおう。
武器を手に走り出したニルスの視界を、見慣れない男の姿がかすめた。かっちりと着込んだ埃っぽいジャケット、大きくなびくスカーフ、そしてすべてを諦めたような目。
抜刀し向き直ろうとした矢先に、胸に焼けつくような痛みを受けた。「……悪ぃ。急いでるんだ」男 の空虚な声。
手に収まるような小さな武器なのに、たった一度の衝撃で、胸はもう呼吸の仕方を忘れたかのごとく、堅くこわばっている。そして刃の切っ先で抉られたように、どくどくとあふれ出る血。
うずくまり、やがて横倒しになったニルスの耳に、慌ただしい足音と交戦の様子が聞こえてきた。時折響く破裂音は、自分に傷を負わせたあの武器のものなのだろう。やがて地鳴りのような喧噪は去り、静寂が訪れた。
「ニルス」
吐き気の中にこだまするように、リインの声が聞こえる。自分がずっと親しんできた、抑揚はないが温かな声だ。
「……ん。僕は大丈夫だ。ジャオさん」
「案ずるな。子供たちはみな、安全なところに避難させた。娘っ子も無事だ」
傍にふたりが立っているのが、気配からは察せられるが、首を向けるのさえ難しい。ニルス、気を緩めるな。意識が途絶えたら戻って来られなくなる。冷静なリインが色を失っている。
「約束する。いつかロンダウを再興する。お前が念じ続けたように。だから」
「リイン。子供たちを。……みんな幸福に」
------僕たちがずっとそうだったように。嗄れた声で言った。
リインが胸をつかれたように目を見開き、大きく頷く。
それを見届け、ニルスはため息をひとつつくと、そのまま息絶えた。胸に刻まれたたったひとつの、得体の知れない傷痕が致命傷だった。
襲撃を受けた研究所はそれからまもなくして閉鎖され、収容されていた子供たちは新たな施設で、 四象刃(フォーヴウィンガルの指揮のもと、より手厚い保護を受けることになる。
ウィンガルはぞの後自らのふたつ名を「黒き片翼」と称する。片方のみの翼が、ガイアスの腹心の人物であることを指すのか、それとも、対と羽ばたく無二の友の喪失を悼むからなのかは、誰にもわからない。
旧ロンダウの族長リイン・ロンダウ二十七歳。リインの部下ニルス•フリーデン三十一歳の、水の季節だっ た。